労務相談事例紹介

1)アルバイトであれば社会保険には加入しなくてもいいのですか?
正社員・アルバイト・パートなどの名称ではなく、就労の実態によって判断します。
「1週の所定労働時間および1ヶ月の所定労働日数が通常の従業員の4分の3以上である」と、常用的試使用関係にあると判断され、被保険者として扱われます。
また、以下の者については被保険者の適用が除外されます。
・日雇い労働者
・2ヶ月以内の期間雇用者
・季節的な雇用で4ヶ月以内の期間雇用者
・臨時的な事業で6ヶ月以内の期間雇用者
従業員の雇い入れの条件によっては社会保険料を削減することも可能です。
2)この度、初めて従業員を雇うのですが、労働契約書には何を記載すればよいのでしょうか?
労働基準法第15条により、使用者(事業主)は労働者を雇い入れる際に下記の労働条件について書面にて明示する義務があります。
①労働契約の期間
②就業の場所・従事する業務の内容
③始業・終業時刻、所定労働時間を超える労働の有無、休憩時間、休日、休暇、交代勤務をさせる場合は就業時転換に関する事項
④賃金の決定・計算・支払の方法、賃金締切・支払時期、昇給に関する事項
⑤退職に関する事項(解雇の事由を含む)
これを怠っている会社は違法であることはもちろん、後々のトラブルの原因となります。
一方、就業規則に定めておくことによって、使用者も労働者に対して入社誓約書、身元保証書の提出を求めることが可能です。
3)従業員から急に請求された有給休暇は拒否することができるのですか?
有給休暇は労働基準法第39条に定められた労働者の権利の一つですので、会社はこれを拒否することはできません。
会社は有給休暇を与えることが「事業の正常な運営を妨げる場合」には別の日に変更させる時季変更権を行使することが認められています。
いつまでに請求すればよいのかは法律上に定めはありませんので就業規則でしっかり定めておくことが必要です。
4)退職した労働者から始業時刻前の朝礼や終業時刻後の掃除の時間について残業代を請求されました。支払う必要はあるのでしょうか?
労働時間とは労働基準法上に明確な定義はないのですが、過去の判例により「労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間をいい、労働時間に該当するか否かは、労働者の行為が使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができるか否かにより客観的に定まるものである」とされています。
よって、始業時刻前の朝礼や終業時刻後の掃除を使用者が義務付けたときは、使用者の指揮命令下にある時間となるため、労働時間として扱われます。
また、使用者の明確な指示がなくても、朝礼、掃除に参加せざるを得ない状況であれば黙示の命令とみなされ、労働時間となります。
近年、退職後の労働者からこのような時間に対しての賃金請求が増加していますので、事前に労働時間管理方法を徹底しておくことが必要です。
5)採用した従業員が仕事のミスが多く、無断欠勤もあるのですが解雇しても問題ないでしょうか?
最高裁では試用期間とは解約権が留保されている労働契約とし、「解約権留保付労働契約」であるとしています。
「解約権留保付労働契約」とは、試用期間中に正社員としてやっていける見込みがなければ解約できる権利を使用者に認めているものの、労働契約が成立している点では、本採用の労働者と変わりはありません。よって、試用期間中の従業員を解雇するには、試用期間の趣旨・目的に照らして客観的に合理的な理由が必要とされますので、安易な解雇は危険です。
また、試用期間中でも雇い入れから14日を超えた場合は解雇予告、または解雇予告手当が必要となります。
6)会社で新しい部署の立ち上げに伴い、人事異動命令を出したのですが、従業員に拒否されています。どうしたらよいでしょうか?
人事異動(配転)については直接規制する法律はありませんが、過去の判例から、勤務場所・職種を特定する合意がなく、就業規則に業務上の都合により配転を命じることができる旨の規定があり、かつ現に配転を行っている等の実情がある場合には、使用者が労働者の個別的な合意なしに配転を命じる権限があるとされています。
これに従わない従業員は懲戒処分の対象にできます。
但し、就業規則に基づいて配転命令権が認められたとしても、その命令が権利濫用となるケースもありますのでご注意ください。
7)会社の業績悪化により、従業員の給料を減額することは可能でしょうか?
労使関係は継続的な関係のため、事情に応じて賃金・労働時間などの労働条件を変更しなければならないことがあります。
しかし、労働契約法第3条により「労働契約は労働者および使用者が対等の立場における合意に基づいて締結し、または変更すべき」とされ、また同法第8条により「労働者及び使用者は、その合意により、労働契約の内容である労働条件を変更することができる」とされています。
つまり、賃金の減額などの労働条件を変更するには労働者の同意が必要であり、一方的には変更できません。
もちろんこの同意をしないからといって、同意しない労働者に対して不利益な取り扱いや、解雇などは無効となります。
適正な手続きを経て、労働条件を変更しなければ、後々の大きなトラブルに繋がりますので慎重な対応が必要です。
8)外回りの営業社員の労働時間はどのように管理すればいいのでしょうか?
外回りの営業マンの場合、営業活動のためとはいえ、会社の外では顧客と打ち合わせをしていようが、喫茶店でお茶をしていようが、事業主にとってはまったくわかりません。
「外回りで10時間は働いています」と言われても、労働時間を把握することができないため、そのような時間に対して残業代を支給するには不合理だといえます。
このような従業員の労働時間の把握が困難な場合には「事業場外労働に関するみなし労働時間制」を適用することができます。
この労働時間制は原則として、その日は従業員が何時間働いたか分からないから所定労働時間労働したとみなすものです。
つまり、この労働時間制を採用することで残業代の支払いが不要になります。
このような労働時間制を採用するには就業規則に記載しておく必要があります。
また、一定の条件のもとではこの労働時間制が無効になり、裁判でも事業主側が負けるケースがありますので、安易に「営業職だから、この労働時間制を採用して、残業代を支払わない」とすることはできません。
みなし労働時間制は専門家のアドバイスもとに導入されることをお勧めいたします。
9)店長には残業代の支払いが不要と聞きましたが、本当でしょうか?
労働基準法第41条における管理監督者であれば、労働基準法で定められた労働時間、休憩、休日の制限を受けません。
ただ、法律上の管理監督者は、店長などの名称に関わらず、その職務内容、責任と権限、勤務態様、待遇を踏まえて実態により判断されます。
明確な判断基準があるわけではないのですが、法律上の管理監督者として扱うには、次の基準を満たす必要があると言われています。
 ・経営者と一体的な立場にあり勤務時間が自由である
 ・従業員の採用権など、重要な責任と権限を委ねられている
 ・給与、賞与などが他の従業員と比べて相応の待遇がされている
10)業務の都合により、アルバイトを2時間早く帰らせた場合、その2時間分の時給を支払う義務があるでしょうか?
もともと出勤日となっている日について、会社が強制的に休みにしたときは、本来の時給を支払う必要はございませんが、労働基準法第26条により平均賃金の6割以上の手当(休業手当)を支払う必要がございます。
これは1日のうちの一部を休みにした場合も同様です。
ただし、この場合は、その日に実際に勤務した時間に対する給与が、平均賃金の6割以上であれば、休業手当の支払いは不要とされています。
つまり、会社が強制的に2時間程早く帰らせていても、その日の給与が平均賃金の6割以上であれば休業手当を別途支払う必要はございません。
なお、平均賃金は、「直近3か月間に支払われた賃金÷3か月間の総日数」で算出します。

PAGE TOP